国境を越えて人々がわかりあい、支えあうことを目指して

ヨンラタナシリ バンディット

著者顔写真

1998年から2004年の6年間、私は神戸の街で留学生生活を送りました。この六年間、私は多くのことを体験し、学び、そして真剣に考えることができました。

私にとって、日本への留学が始まった瞬間は、大学の4回生の時に日本への留学生が決まったときからです。そのときから、私はあることに気づきそして真剣に考え始めました。

それは、この日本への留学が実現できたのは、日本国政府をはじめ、両親そして多くの人の支えによるものだということです。日本へ留学してからも、私はまた多くの日本人、同じ留学生にさまざまな面で支えられ、自分の可能性と能力の限界に挑戦することができました。そして、この留学のことだけではなく、私が生まれてから今まで、そしてこれからも私はいろいろな面で多くの人に支えられている必要があることを考え始めました。

このように、人が誰かの支えを必要とすることを考えたとき、私が大学の授業で学んだ、ギリシャの哲学者アリストテレスの言葉を思い出しました。彼は、今から約2400年前に「人間は政治的動物」であり、人が人間として完成することができるのは国家の秩序においてのみと主張しました。これは、人が一人だけでは生きることができなく、互いに協力し、支えあう必要があり、そして互いに協力することを実現させるために人々は国家という組織制度を作り上げたということです。

大学での専攻が政治学だったこともありまして、人が互いに協力し、支えあうために必要である国家の組織制度の持つ意味に非常に関心がありました。日本留学での研究テーマもこの制度というものに対する関心から始まったものです。

私の日本での研究のテーマは、日本とタイの大蔵省の組織構造の違いを比較し、その組織構造の違いが、消費税率の動向にどのような違いを及ぼしたかである。

私はこの研究で、ある結論を得られました。それは、日本とタイの大蔵省の組織構造の違いは消費税率の動向の違いを及ぼしただけではなく、それぞれの組織に所属している官僚の政策選好(政策に対する価値観)にも大きな違いを及ぼしたのである。つまり、制度や組織の形は、そこに所属する人の価値観に影響を及ぼしたということである。

大学院での研究では、研究の対象を大蔵省の組織構造の違いに限定していましたが、行政組織だけではなく、もっと小さな単位である家族やもっと大きな単位である地域や国家にも同じように所属している人たちの価値観に影響を与えていると思います。

そのため、それぞれの地域や国に住む人たちはそれぞれの特有の価値観や考え方があることは決して不思議のことではありません。そして、現代社会において、それぞれの地域や国の人たちの持つ価値観で最も重要な価値観とは、「その地域や国の人々がほかの地域や国の人達のことをどのように思うか」だと思います。

「人は政治的動物」と主張したアリストテレスがいうように、国家の中だけで、人間が完成するという哲学は2400年前の社会には当てはまることだと思います。

だが、現代において、人が一地域や一国家の中だけで人間として完成するということが可能かどうかは疑問に思います。なぜなら、地域や国家そのものが他の地域や国家と関係なく存在することができるわけではなく、互いに協力し支え合う必要があるからです。

それが、現代でいう国際関係、国際協力である。地域や国家に住む人たちも自分の地域や国家の中だけでは、完成な生活ができるわけではなく、必ずなんらかの形で地域間や国際的の協力が必要である。人の支えあう協力し合う輪が国際の範囲まで広がることになります。そのため、それぞれの地域や国に住む人々が、ほかの国や地域との関係を重要なことだと思うことも必要になると思います。

だが、現実的に国家や地域間で、戦争や紛争があり、人が分かりあうことが出来ないことがまだまだあります。これは非常に残念な事実です。どの国のどの地域に住んでいる人でもみんな同じ人です。異なる地域や国の人に違うところがあるとすれば、それは、生まれ育った地域や国が違うことや、その地域や国家の特有の価値観が違うだけです。

私は日本の留学で体験した国際交流を通じて、ほかの地域や国家との関係いわば、国際理解、国際協力が大切なことだと真剣に考えるようになりました。そしてこの留学での最初の本格的な国際交流は、小学校でのタイの文化の紹介でした。

自分でも不思議だとは思いましたが、それまでは、母国であるタイの文化や習慣に関して真剣に考えたことがありません。この小学校でタイの文化を紹介することが決まったとき、何をしたらいいのかすごく悩みました。自分の母国のことをどのように紹介したらいいのか。タイのことに興味をもってくれるのか。日本の小学生にタイのことをわかってもらえることに必死でした。きっと、そのときは、私がタイ人であることをもっとも自覚した時だと思います。そして、私は小学生たちがタイのことを少しでも感じてもえるためにタイ料理を作り、みんなで一緒に食べる事に決めました。自分自身が、それまで作り方が知らなかったタイ料理も作れるようになり、タイ語に関しても発音記号や文法を紹介できるほど、タイのことをより理解できたことがとてもうれしかったです。

国際交流は、ほかの地域や国のことを理解することや、自分の地域や国のことを理解してもらうためのことだけではなく、実際には自分が生まれ育った国や地域のことをより理解することも出来ることに気づきました。自分が生まれ育った国や地域のことを理解することは、他の地域や国のことを理解する上で欠かせないことだと思います。

そして、この国際交流には更にうれしい出来事がありました。それは、小学生たちから数多くの手紙が届いたことです。 『タイのお話楽しかったです』、『タイ料理おいしかったです』、『いつかタイに遊びに行きたいです』、『タイ人と友達になりたいです』のような手紙の内容のほかに、タイについて調べてきたことや、疑問に思ったことをまとめたレポートも送ってきてくれました。人には元から互いに分かりあえる何かを持っていることを感じました。国際交流を通じてこのことを感じることができて、本当によかったと思いました。

この国際交流のすばらしさを知った私は、その後も時間が許す限り国際交流に積極的に参加するようになりました。やがて、日本に留学して4年目の2001年、私は国際教育文化交流協会と出会いました。この出会いにより、私は日本でのより幅広い国際交流に参加する機会を得られ、そして、国際交流は母国の文化の紹介だけで終わるわけではなく、国際交流をするための組織や制度というものは必要であると考えるようになりました。

国際交流として、小学校や中学校で母国の文化を紹介すること自体はもちろん十分に国際交流として成り立っていると思います。だが、現実的に留学生は何年間か日本で留学し、最終的には母国に戻る事が決まっています。そのため、留学生の日本での国際交流は留学生が母国に戻るまでの短期的なものになることが多いです。日本での国際交流で出来た縁を、日本での留学生活限りで終わらせるのはもったいないことだと思います。

そして、留学生と日本人が個別的に国際交流をするより、国際交流と国際理解に対して、みんなで一緒に考え、一緒に話し合って、一緒に活動をする場ができれば、さまざまの地域や国の人たちが分かり合え、支えあえ協力し合うことがよりより広い範囲にわたって実現することができると思います。この一緒に話し合って、一緒の活動をする場所というものが、国際交流をするための制度や組織というものです。

私は日本で留学しているときから、この国際交流をするための制度または組織の必要性を感じ、考えてきました。そして、日本での留学を終え、タイに戻ってきた私はこれから、国際交流で何が出来るか考えてきた結果、私は日本に留学した留学生をはじめとする国際交流の制度や組織を作り上げたいと思います。

同じく日本に留学し、日本を理解し、そして日本を愛する留学生は数多くいると思います。そしてこれらの留学生には、互いに同じような目標があると思います。それは、日本との架け橋しになることです。この同じ目標を持った留学生が国際交流の組織を支えあうことは出来たらどれくらいすばらしいことでしょうか。その上、私のように日本での留学を卒業した後でも、この国際交流は続けることができます。それにより、留学しているときとまた違う立場で国際交流について一緒に考えることができます。またさまざま形の国際交流が実現するのではないかと思います。

私の考えた、この留学生による国際交流の組織で出来ることは、留学生一人ひとり出来ることとみんなで一緒に出来ることがあると思います。留学生一人ひとりで出来ることは、それぞれが日本への架け橋になる活動である。私が考えている自分でできることとは、私の知っているタイのことと日本のことを出来る限り多くの人に紹介することです。

そして、みんなで一緒の出来ることとして、例えば、それぞれの国や地域のことを互いに案内し、直接に見に行くことを通じて、国際交流をすることである。または、将来を担うそれぞれの国の学生が国際的な共同活動を作り上げることが考えられます。

人はみな誰かの支えを必要とします。今まで、私は誰かの支えを多く必要としてきました。このまま何もしないで過すことは結局人の支えを一方的に必要することになってしまいます。これからは、この国際交流の場を通じて、人々が互いに理解し合い、協力し合う輪をより広げることで、今度は誰かの支えになることをがんばっていきたいと思います。

(Yongratanasiri Bundit、 タイ、 神戸大学大学院法学研究科修了)

お知らせ一覧へ戻る